No.174 「外に出ること」
「コロナ禍」と言われる期間も一年半が過ぎたでしょうか。
私自身はこのコロナ禍を通じて、東京の会社を辞め、転職をし、北海道に戻ってくるという変化がありました。今を生きる人は、多かれ少なかれ須くこの期間には何かしらの変化に触れたのだと思います。
その中で見た景色。東京で見た満開の桜、北海道の山々に降る雪、それを超えて夏、大きく笑う山の緑。人間が「禍」にありながら自然はまったく変わることなく四季を全力で生き抜いているようでした。
北海道に戻ってきた私は、もとより好きだったこともあり、山スキーにキャンプ、釣りと野山を駆け巡り北海道の豊かな自然の中で過ごす中で、人間の身体や美意識が自然と連動することを感じながら、茶の湯の感じ方も少しずつ変化してきました。
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ステイホームが叫ばれる中、私自身も親しい友人とオンラインでのコミュニケーションが求められ、どこかもどかしさを感じながらも、それによりそのコミュニケーションにも長けてきた今年の春、私がinstagramアカウントに上げた一碗の写真を見た旧友から連絡が。
「最高のシチュエーションでお茶を点ててくれないか」
という誘いから、この夏の緊急事態宣言、まん延防止措置が明けたタイミングで行われた、レゲエ、テクノなどの音楽がなり、SUPやテントサウナなどの自然感じる楽しみが溢れるイベント。
美しい湖畔、酷暑に関わらず吹く心地よく冷たい風を感じる中、私はお茶を提供するスペースを作りました。
これまで日々の稽古で学んだこと、「こうあるべき」という教えも胸に留めながら、その一方で美しい景色や、茶室には鳴る事のない音楽、茶道の心得のある訳ではない方をもてなすこと。そういったことに向き合い、その場で最高の茶を供することを目指しながら、今まで自分がとらわれてきたものが一気に晴れていくような気持ちになりました。
素晴らしい日、素晴らしい時を今いる人と分かち合う。
その日、その土地の自然を受け入れ、最も美しく、心地よい時間と空間を作ること。
そういったものが、これから茶道を極める先にあるような気がしました。
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「これ、アップしていいですか?」
席に入っていただいた女性から、席の様子やお菓子、立てたお茶の一碗の写真をアップしたいとお声が。もちろん快諾し、その方のアカウントにはいくつもの「いいね」がついているようです。
お家元の指導方針で示された「デジタル社会に適した一椀」。
奇しくも、デジタル社会に自分が自信をもって送ることができた価値は、自然に触れ、ともに乾杯を重ねた旧友と温めた関わりから生まれました。
自らの殻の外に出て、感受性を満たし、人とのつながりを楽しみ、新しい価値観に触れること。そして恐れず自らの茶をふるまうこと。それによって新しい価値観が生まれ、新しい社会に受容される茶が輝きを持つことにつながるのではないでしょうか。
また自由に外に出られる日は先になりそうですが、新と旧、デジタルとアナログ、正と誤などにとらわれず、自信の感受性を信じ、伝えていくことを続けていこうと思います。