No.116「お水の使い方」
〜部長コラム 〜
コラムNo.116「お水の使い方」
お稽古には沢山の学びがございます。
先生のお宅に通い始めた頃、私は遅い時間帯のお稽古でした。午前の方々で用意し、夜の仲間で片付けます。
お稽古に使用するお水は、水屋にて蛇口から水瓶に溜め、その水瓶からお道具に汲み入れます。お釜のお湯は本当においしく、お茶は然ることながらまろやかなお白湯が私は大好きです。最後のお点前が終わりますと、お釜を水屋に入れ、お水と合わせながら柄杓でお釜全体を流します。そして、そのぬるま湯を桶にあけます。床用布巾を絞り、畳を拭くのです。畳の目に沿って皆で拭き上げますことは、大変気持ちが良いものです。
さて、お役目を果たした桶のお湯を流そうと思いきや、先輩が、「ちょっと待ってね、まだ続きがあるのよ。」と、桶を手に階段を下り玄関を出て、オンコの木へ歩み寄りました。そして、本日のことをよく知ったお水を根元に優しく撒きました。「ここまでなのよ。」と、晴れた夜空を背景にニコリとおっしゃった姿を印象深く覚えています。
お水を還した同じ土壌からお花が咲き、日々のお稽古やお茶会に麗しい姿を見せてくれます。そう考えますと、何とも瑞々しいお水の働きでしょう。一連の循環に、湧き上がる感動を覚えた一場面でした。
北海道で起きた9月の地震では、各地で断水に見舞われました。不便ではありましたが「この時だから大事に使う」という捉え方にとどまらず、「いつも大事に使う」という思いを胸にした体験となりました。「常」を大切にする事で、新鮮な感動とありがたみを、途切れることなくもってすごせるのだとお稽古のお水と重ねて廻らせました。そして同時に、己との約束となりました。
一粒一滴皆御恩でございます。不足を言うこと無く、いま目の前に有する物事を大切に生きていきたいです。