No.62「憧れの七夕のしつらえ」
〜 部長コラム 〜
部長コラムNo.62「憧れの七夕のしつらえ」
七月になると一度はしてみたい七夕のしつらえがあります。
京都 冷泉家の乞巧奠の飾りです。
乞巧奠とは、「星の座」とよばれる彦星と織姫へのお供え物を前に蹴鞠、雅楽、和歌の朗詠を二星に手向けます。または、技芸の上達を乞う祭りでもあります。
「星の座」に二本の笹が立てられて、梶の葉、海の幸、五色の糸、五色の布、秋の七草が飾り、楽器と水を張った盥を用意して夜、二星を盥の水に映します。
これを七夕の茶会の待合にしつらえたら素敵だと思います。
そこに雅楽の演奏をしてもらい笙や篳篥の音色に身をまかせるなんて最高じゃないですか。
あくまで、これは憧れです。いやいや、ここまでしなくとも、もっとスマートにそしてセンスの良さをアピールできる七夕のしつらえがありますねぇ…。
もうひとつの憧れ、それは京都の老舗旅館「俵屋旅館」。創業300余年の京都で最も古い旅館の一つ。スティーブ・ジョブスも定宿にしていたらしい旅館。その俵屋の七夕のしつらえが素敵なのです。
旅館の中坪に再現された乞巧奠。五色の糸巻き、絹布、手前には夏野菜の供物。蹲踞には清冽な水が蓄えられ、天の川に見立てられている。そこに願い事を綴ったと云う梶の葉が浮かべられている。その両脇に二本の笹が立てられ、笹と笹とを五色の絹糸が橋渡しにつながっている。なんとお洒落な絵面でしょうか。暫しの時間そこに佇んでいたいと思わせる空間演出です。
いつか、機会があったら真似してみたいしつらえです。
でも、もっとロマンティックな演出をした茶会がある。それは世界文化社刊「茶事の真髄 茶ごころに触れる」という書籍の中で七夕の茶事の項で行われた夜の茶会である。
この近代アートを用いた数寄者的茶会はまず寄付のリビングルームには金更紗の屏風に絹糸の束と針が据えられ、そのそばには大きな梶が生けてあり、その横ではヘンリームーアの彫刻が飾られ、所々にジャコメッティのランプの灯りがアクセントになっている。
広間に場所を移し懐石となる。床には有元利夫の油彩画「花火」が掛けられ、その下には紀元前の中国の青銅でできた獅子頭を用いた香合が紫の袱紗の上に置かれている。床脇には北魏時代の石の仏様が静かに佇んでいる。
その雰囲気の中、料理が出されるはピカソの皿に小芋、小蛸、蓮芋の焚合。フランスの画家ジョルジュ ブラックの抽象的な鳥のデザインが施された陶板に甘鯛の塩焼き。スウェーデンのコスタボダの硝子の器には水貝、もろ胡瓜、独活、縒り人参の生姜酢。そして、菓子はほおずきの皮を器として見立て、皮の中には蓴菜が入る。
その後、中立になり腰掛待合に戻ると露地一面に茶碗が並べられて、その茶碗のすべてに水が張られ蝋燭が浮かぶ。炎が揺れると、水にも映って息を呑む美しさになる。まるで露地が天の川と錯覚させる。
銅鑼の音が響き茶室に席入りすると床の間には氷の塊を花入に見立て、そこに真紅のバラが一輪生けてある。涼を演出するとともに倉俣史郎の「Miss Blanche」を想起させる。その上には9世紀頃のシリアのビザンチン協会のサンドイッチガラスのタイルが一片掛けられている。それはこの茶室を照らす星のようです。
といった具合に茶事の様子が克明に綴られている。美しい写真とともに。
今回、憧れの七夕のしつらえということで3つの例を書き連ねてきましたがこういったものを見たり、聞いたり、読んだりすることでインスピレーションを得て茶道に対して新たなモチベーションにもなります。
自分の中につねに憧れという熱量を高め、その熱意を持ちつづけていきたいと思います。