No.90「釜〜良い錆、悪い錆〜」
〜 連載 学び舎〜
No.90「釜〜良い錆、悪い錆〜」
お茶をするにあたってお湯を沸かす必需品の釜。鉄は錆びるものであるが、錆にも「良い錆」と「悪い錆」がある。扱いを間違えると「悪い錆」が発生してしまうため、その片づけ方には注意が必要である。
『釜の湯がきちっと煮えていなければ片付けてはいけない。』という。
なぜ釜が煮えていなければならないのかは、釜の底に装置された「鳴り」または自然に釜に生まれた鋳残りが関わっているようだ。
本来その隙間には湯が溜まっている。この隙間は釜の他の部分より温度が高く、釜が煮える元を作っている。釜が煮えて泡が出ているならば、この隙間は湯(液体)ではなく水蒸気(気体)で満たされている。釜の湯を捨てた時、隙間の水はそのまま釜の中に残される。
水蒸気に含まれる水の質量を1ccとすると液体に含まれる水の質量は1200ccに相当するため、釜を余熱で乾かす時、水蒸気の方が乾きやすいのは一目瞭然である。逆に考えると、液体はそう簡単に乾かない。その際に残った水分が「悪い錆」の原因となる。
・悪い錆とは
釜の温度が低ければ、鉄は錆びた時に三酸化二鉄、いわゆる赤錆になる。赤錆はさらに鉄の錆を誘発し、非常に脆いため剥げ落ち、さらに深く錆は進行する。
・良い錆とは
水の存在下で高温に置かれると、その錆は四酸化三鉄となり、黒い錆となる。これは非常に安定した錆であり、この錆が表面を覆うことにより鉄が直接空気に触れることがなく、美しい地膚が保たれる。
○悪い錆を作らない方法
大寄せなどで使った釜は煮えが落ちていることが多い。このままお湯を捨てて片づけると水分が残り、赤錆の原因となる。ではどのようにしたら良いか。それは、もう一度お湯を煮立たせればよい。胴炭を割ったり、残ったすみに被っている尉を落として組み直し、少し炭を足し、煮え音をしばらく待ってから片づける。
お茶会終了後は時間に追われながら片付けを行うが、今一度釜のしまい方について見直したいものである。
参考図書―堀内國彦著:茶の湯の科学入門.淡交社