No.84「釣釜について」
〜 連載 学び舎〜
No.84「釣釜について」
弥生三月になりますと寒さも次第にゆるみ、根雪も解けて春の足音が近づいてまいります。
茶席では釣釜の時期となります。
広間では鎖を、小間では自在を、天井に取りつけられた蛭釘から釣るし、弦と大釻を使い釜を懸けます。
〇鎖(くさり) 広間で使用するもの。
長さの調整は上部にある小鉤と下部にあるゆるし鉤で行う。
唐物製と和物製があり唐物が最上とされている。
細鎖、一重鎖、二重鎖、九重鎖、腰細鎖、ひつなり鎖などの種類がある。
材料は鉄を本来として、唐銅、煮黒目などでできたものがある。
〇自在(じざい) 民家などの囲炉裏に用いていたもの。
竹で出来ており、上端に掛緒、下端に小猿と鉤がつけてある。
鉤に釜を懸け、小猿で釜を上下させる。
五節か七節の、節にゆがみのない竹が良い。
〇弦(つる) 鉄や真鍮でつくり、馬蹄形に近い半円状のもの。
両端が上に反って鉤状になっている。
釜の釻にかけ、円頂部を鎖や自在の鉤にかける。
鉤の先は球、房、花、椎形などがある。
〇蛭釘(ひるくぎ) 釜を釣るための蛭の形に似た釘。
鉤の中心と炉の中心が垂直になるところに、鉤先が下座にむくようにうたれている。
〇大釻(おおかん) 鎖や自在を使うときは釜の釻は大釻を用いる。
〇釜(かま) 揺れても炉壇にあたらないように細くて長めのものが懸けられる。
筒釜、棗釜、雲龍釜、鶴首釜、車軸釜など。
釣釜では五徳を使用しないため、代わりに五徳の蓋置を用いることもございます。
釣るされた釜がゆらりゆらりと揺れる風情は春めいており、お茶室の雰囲気を深めているように感じられます。
年度末が近づくにつれ、なにかと忙しなく落ち着かない私達の心持を表しているようでもあります。
春の日永の好時節、季節の移ろいを楽しみながら一碗をゆっくりと味わいたいと思います。
参考文献
*裏千家茶道点前教則19 応用点前 趣向と工夫 淡交社
*茶道具百科第2巻 釜と炉・風炉 ―扱いと心得― 淡交社
*茶の湯実践講座 茶道具の心得と扱い 淡交社