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No.5「躙口(にじりぐち)」

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〜 連載 学び舎〜

No.5「躙口(にじりぐち)」




茶室には、躙口(にじりぐち)と呼ばれる壁面に設けられた客用の小さな出入口があります。大きさは高さが約66cm、幅が約63cmといいますから、心持ち縦長の長方形ということになります。利休居士が待庵に設けたという躙口は高さ78cm、幅72cmと通例よりかなり大きく作られています。

躙口の成立については諸説があり決定していませんが、利休居士が枚方(大阪府)の漁夫の家の潜り口から思いついたとも、桟敷や歌舞伎の囲いの出入り口をヒントにしたとも言われています。いずれにしても広がりを持つ空間のように印象づけるには、狭い口から入ることを要求されます。

これは、慣れていなければ、女性でも身をかがめて席入りするのに大変なくらいですから、男性ならばなおさらのことでしょう。どうしても、ひとりずつ、ゆっくりとでなくてはくぐれません。
それにもまして、今の時代でも日本では、男性中心の社会システムが残っているのに、男子たるもの身をかがめて平伏するということが、戦国時代の封建社会に受け入れられるということ自体、不思議だと思いませんか?
躙口には、身をかがめて茶室に出入りするという、利休居士特有の精神的、思想的な目的が意図的に表現されていると言われています。茶室に入るには誰であろうとも、低く頭を垂れて伏して入らねばなりませんので、茶室の中では、まず自分というものを一度捨て、お互いにひとりの人間として対峙します。茶室は、小宇宙、あるいは母親の胎内であるとよく言われますが、躙口から入ったら、立場を捨て、無垢なありのままの姿になれということを教えられたのです。

現代の住宅事情もあり、躙口のある茶室を個人でもつことは難しいですが、一服の茶をいただく前に、まずは謙虚な心を教える「躙口」を持ちたいものです。

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