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No.19「茶の湯と和歌」

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〜 連載 学び舎〜

No.19「茶の湯と和歌」



 千利休の師・武野紹鴎(たけのじょうおう)は和歌に傾倒し、それまで墨蹟や唐絵を掛けるのが一般的だった床に和歌色紙を掛け、茶の湯の国風化と草庵化を推進しました。それ以降、和歌は掛軸としてまた道具の銘として茶の湯と深く関わっています。今回はそのような日本人の精神性に大きな影響を与えてきた茶の湯と和歌との関わりについて、茶道具を通して紹介します。

 和歌から銘が付けられているお道具は色々ありますが、例えば「雲井」という銘のお茶碗をご存知でしょうか?
和歌「播磨潟 須磨の晴れ間に見渡せば 浪は雲居のものにぞありける」
                                藤原実宗『千載和歌集』
歌意:遠浅の播磨潟の一部である須磨の海岸から雲の切れ間を見渡してみると、波は海から立ってくるものではないことがわかった。海と空が重なる場所から生まれて岸へ寄せてくるのだなあ。
                青井戸茶碗 銘「雲井」
まなび
                金沢市立中村記念美術館蔵
 青井戸茶碗の「雲井」は上記の和歌に由来するものですが、確かにお茶碗を見てみると口縁に溜まった白釉が一筋の雲のように見えます。ちょうど歌から思い浮かぶような水平な雲が想像できます。また、「雲」いう言葉は他に「どこか遠く手の届かないもの」を連想させます。私たちが「雲をつかむような話」や「雲の上の人」といった表現を使うように「雲」にはどこか遠く手の届かないところにある、という意味があり、和歌では連想によって歌の意味を膨らませています。このお茶碗を命名した白山彦五郎もそんな気持ちだったのかもしれません。一筋の雲をたたえるどこか儚く、手の届かないお茶碗でお茶をいただく・・・銘の意味を知り、和歌の意味を知るとまた違うお茶の楽しみ方ができます。
他にも和歌が銘の由来のお道具が数多くありますので、一部をご紹介します。興味のある方はぜひ歌の意味とお道具の持つ趣を味わってみてはいかがでしょうか。
・茶杓「浜荻」「旅寝する伊勢の浜荻露ながら結ぶ枕に宿る月影」
・茶入「浅芽」「色変わる野辺の浅芽に置く露を末葉にかけて秋風ぞ吹く」
・茶入「面影」「人はいさ思ひやすらむ玉かづら面影にのみいとど見えつつ

参考文献:淡交別冊第53号 茶の湯と和歌 歌切と歌銘の世界
         淡交テキスト8 茶の湯 銘と和歌